日本独自の犬の問題

日本独自の犬の問題があります。

たとえば、ダックスフンドは虚弱体質のイヌが多いという噂があります。これには乱繁殖の影響があるのではないかという噂もあります。噂だけではありません。確かに、この犬種の原産国であるドイツのダックスフンドとは、明らかに体格がちがいます。同じミニチュア・ダックスフントでも、日本のダックスフンドは骨量と筋肉があまりにもない、という印象を受けます。

どうしてこのようなちがいが出るのでしょうか?

これにはケネルクラブの姿勢が大きくかかわっています。組織的には、JKCに相当するVDH(ドイツ家庭犬協会)には、「繁殖に用いられる雌犬は最低月齢12ヵ月以上であり、最高年齢を8歳とする。最後の出産日は8歳の誕生日を過ぎてはならない。出産の頻度は24ヵ月以内に2回以上であってはならない」という取り決めがあります。違反すれば、高額な罰金を科せられます。つまり、ドイツでは、犬種にかかわらず、母イヌの健康を考慮して、生涯のうちで3~4回の繁殖にとどめているということです。

日本のある獣医師は、椎間板ヘルニアのダックスが多すぎると嘆いています。ダックスフンドは、″軟骨形成不全種″ともいわれ、椎間板が変性しやすいとされています。3歳以降になると、前ぶれもなく、ある日突然、症状が出ることがあり、ひどい場合では下半身が動かなくなるということです。

ゴールデンやラブラドールなどレトリーバーやジャーマン・シェパードに多く見られる股関節形成不全(CHD)も深刻だ、という話はずっと前からされています。

イヌの股関節形成不全(以下、「CHD」と表記する)は、1935年に初めて報告され、血統による発病頻度がはっきりしていることから、遺伝性の疾患と見なされています。不安定な内股歩行をする。階段の登り降りをきらう。腰をゆらしての″モンローウォーク″。これらはCHDの症状です。症状がすすめば、歩行困難になったり、食欲不振やうつ状態になったりします。痛いからです。

原因については、急速な成長をする大型犬の発生率が高いことから、骨格の発育がそれを支える筋肉の発育よりも早いためではないか、と指摘されています。

この疾患は、「先天的疾患」ではありません。正常な股関節をもって生まれても、発病することがあるのです。また、CHDでない両親から生まれても、CHDになる個体もいます。

なぜでしょうか? これには「生まれ」と共に、「育ち」が関与しています。有力視されている説が、生後1年以内の栄養過剰です。急速な成長に伴う体重の増加によって誘発されるというのです。

こんな報告があります。CHDの遺伝的リスクをもった子イヌを高カロリー食で育てた場合、ふつうの食餌で育てた場合に比べて、深刻な形成不全の症状があらわれた。一方、低カロリー食を食べた子イヌは、発生率も低く、症状も軽かった。

日本のレトリーバーの場合、2001年の疫学調査で、ペットとして飼育されているラブラドール・レトリバーの約45%に発症しているとされ、繁殖が管理されている盲導犬でも24%に発症レベルの障害がある、という実態が明るみに出ました。

イギリス、ドイツ、スイス、スウェーデンなどヨーロッパの主要国では、1970年代までにCHDの検査・登録システムができあかっています。たとえば、スウェーデンでは公開登録制が実施され、1992年の時点で、ラブラドールーレトリバーの場合、16年前の罹患率25%が14%にまで減少したということです。

アメリカでは1990年に、動物遺伝性疾患管理協会(GDC)が設立され、情報提供が進んだものの、検査は義務化されませんでした。このため89年から93年頃にかけてアメリカから日本へ輸入された、ドッグショ厂のチャンピオン犬の中には、CHDの検査をしていないイヌがかなりいたという指摘があります。そうだとすれば、日本国内で繁殖に使われたアメリカのチャンピオン犬によって形成不全が遺伝的に複製されたのではないか、という懸念は現実味を帯びた話です。

日本の現状はどうなっているのでしょうか?

個々にはレントゲン検査を依頼する事例はありましたが、制度としてのCHD対策は講じられていませんでした。2003年になってようやく獣医師たちが、日本動物遺伝病ネットワークを立ち上げ、データベース化や情報提供へ向けて歩み出しました。日本盲導犬協会では、2002年から全頭検査を行ない、その結果をふまえて交配にとりくんだため、盲導犬については罹患率が大きく下がってきた、と報告されています。しかし、繁殖犬には有効な対策が講じられていません。そのため、今日、レトリーバーの70~80%がCHDではないか、という声があります。

現在、ドイツ、スウェーデン、アメリカなどのケネルクラブが発行する血統書には、CHDの診断結果が記されています。日本でも一刻も早く、繁殖犬への検査・登録システムをつくりあげるべきです。CHDの診断結果について、血統書への記載を義務付けることは、罹患率を減少させていく″保険”になることでしょう。

しかし、ここでも問われるのは、ブリーダーの知識とモラルです。CHDのような遺伝子の影響を受ける疾患に関しては、リスクのある個体を繁殖から除くべきです。そうすれば家庭犬の罹患率は、確実に減少するはずです。CHDはレントゲン検査によって、明らかになります。イヌを購入するなら、両親の検査状況をチェックする。最低限これは、必要なことではないでしょうか。